文献管理ソフトは万能か

論文執筆で避けては通れないのが参考文献リストの作成です。原著論文や総説では参考文献が数十件に及ぶことも珍しくなく、文献データベースなどから書誌情報をコピー&ペーストして、1件ずつリストを作成していくのは大変な作業かと思います。

そんな時、文献管理ソフトで参考文献リストを自動作成するという方法があります。

文献管理ソフトでは、あらかじめ引用する論文の情報を取り込んでおき、Wordのプラグインなどを使って書誌情報を簡単に出力することができます。ZoteroやMendeleyといった無料サービスの登場で、文献管理ソフト導入の敷居は確実に低くなりました。

1件ずつコピペする手間が省け、しかも無料なら、誰しもが文献管理ソフトを使用して参考文献リストを作成したいと思うのではないでしょうか。しかし、「そんなうまい話があるのか」と思いませんか?

そこで、試しにZoteroを使用して参考文献リストのサンプルを出力してみました1–3。Zoteroにデフォルトで備わっている『Nature』の引用スタイルを使用しています。

  1. Nalbandian, A. et al. Post-acute COVID-19 syndrome. Nat Med 27, 601–615 (2021).
  2. Freaney, P. M., Shah, S. J. & Khan, S. S. COVID-19 and Heart Failure With Preserved Ejection Fraction. JAMA 324, 1499–1500 (2020).
  3. Haendel, M. A. et al. The National COVID Cohort Collaborative (N3C): Rationale, design, infrastructure, and deployment. Journal of the American Medical Informatics Association 28, 427–443 (2021).

一見すると、問題なく書誌情報が出力されているように思えます。では、実際に『Nature』で規定されている参考文献のスタイルに合わせて修正してみると、どうなるでしょうか?(修正した箇所をハイライトします)

  1. Nalbandian, A. et al. Post-acute COVID-19 syndrome. Nat. Med. 27, 601–615 (2021).
  2. Freaney, P. M., Shah, S. J. & Khan, S. S. COVID-19 and heart failure with preserved ejection fraction. JAMA 324, 1499–1500 (2020).
  3. Haendel, M. A. et al. The National COVID Cohort Collaborative (N3C): Rationale, design, infrastructure, and deployment. J. Am. Med. Inf. Assoc. 28, 427–443 (2021).

大文字と小文字の区別、誌名の略称の表記に修正が必要でした。たった3件のサンプルではありますが、文献管理ソフトも完璧ではないようです。

参考文献のスタイルが規定と多少違ったとしても、書誌情報自体が間違っているわけではないのだから、投稿には何ら差し支えない、と考える方もいるかもしれません。

当社は編集事務局として、投稿論文の受付作業をさせていただく立場ですが、参考文献が投稿規定に則って完璧に書かれているのを見ると、「我々のジャーナルのために書かれた論文なのだ」と毎回、感動します。反対に、参考文献のスタイルが滅茶苦茶だと、他誌でリジェクトされた論文だろうかと思ってしまうことさえあります。それくらい、参考文献の書き方には、著者の投稿するジャーナルへの思いが表れると思っています。

論文を審査する編集委員や査読者が、参考文献のスタイルまで気にされているかはわかりません。しかし、少なくとも査読にまわされる前の段階で、人の目に触れ、チェックされていることを気に留めておいて損はないのではないでしょうか。

文献管理ソフトで自動作成されたものであっても、1件ずつ手作業で作成されたものであっても、投稿前にもう一度、参考文献リストが投稿規定に則って書かれているかをチェックされることをお勧めします。

<参考>
Zotero
https://www.zotero.org/

Mendeley
https://www.mendeley.com/